平たく言えば、異色顔合わせ。近ごろ流行のコラボレーションを、石川さゆりさんと奥田民生さんがやるとは、誰も想像しなかっただろう。
きっかけは、09年に行なわれた「京都音楽博覧会」(ロックバンドくるりが主宰する音楽フェス)に、お二人が参加したこと。
実は汽車好きの石川さんは、そのフェスの会場である梅小路公園が、かつての機関区の跡地であることをご存知で縁(えにし)を感じ、参加することに。
そしてロック・フェスに初参加した石川さんは、その自由な空気を楽しみ、多くの参加者の中から奥田さんと親しくなる機会を得た。
そうなれば「何か一緒にやりましょう」と社交辞令のひとつも交わすのが礼儀というものだが、ただの社交辞令に終わらなかったのが、お二人の素晴らしいところ。
「奥田さんと、お友達になりたかったの。このかたと音楽を、ちょっと一緒に何か出来たら面白いなと思って」(石川)
そんな御要望に応えた奥田さんは、あっさりと2曲、書き上げた。
「プレッシャーは、なかったですね。ダメならダメでいいやって(笑)。ちょっと今までに無いものが出来たら嬉しいだろうなということだったんで」(奥田)
そして出来たのが「Baby Baby」。60年代ポップス風の軽やかな曲を、石川さんがキュートに歌っている。
コンサートやアルバムでは、実は多彩な曲を歌っている彼女だけれど、やはり「津軽海峡冬景色」や「天城越え」のイメージが強い。
それと対極にあるようなポップ・チューンを歌うことに躊躇しない石川さんの度量と、そんな曲を投げ掛けた奥田さんの太っ腹に驚くしかない。
しかも、それが見事に成功し、まさに「異色顔合わせ」の妙味を生んだ。
「普段は、この曲の女の人は何が言いたいんだろうとか考えて歌うんですけど、奥田さんの歌では、それを追求するよりも声なのかなあとか」(石川)
カップリングの「スロウサーフィン」は、微妙な距離感のデュエットが秀逸。
「"銀座の恋の物語"みたいになったらはずかしいんで、バランスを考えました」(奥田)
これまでもパフィや木村カエラに曲を提供して来た奥田さんならではの女性アーティストへのアプローチが功を奏し、それを確実に受け取り自身の歌として表現した石川さんの柔軟さと懐の深さに、改めて引き込まれる。
ポップスが本来持っているエヴァーグリーンの魅力と、キャリアを積むことで生まれる歌の豊かさが、こんなかたちで結実するとは、日本のポップスにはまだまだ可能性がある。
今井智子