「青春のポップスV〜You've got a friend」
2001.12.19/TECN-26736/アルバム ( )内はオリジナル・タイトル

01:「ビコーズ」 [Because]
この曲のオリジナルは、60年代に大ヒットを記録したデイヴ・クラーク・ファイ ヴのナンバー。彼らは61年にロンドンで結成された5人組で、62年にエンバー・レー ベルから「チャキータ」でデビュー。その後ピカデリー〜コロンビアとレーベルを移 籍し、64年に「ドゥー・ユー・ラヴ・ミー」が全英30位まで上昇し、一躍注目を浴び ることに。そして同年「グラッド・オール・オーヴァー」がビートルズの「抱きしめ たい」を蹴落とす形で全英1位を獲得し、名実共にトップ・スターに。この「ビコー ズ」は64年の、本格的にアメリカ進出し始めた時期にアメリカのみで発売されたシン グルで、全米3位のヒットを記録したナンバー。今や彼らの代表曲であり、ロックの 定番曲の1つでもある。ちょっと翳りを帯びたコード進行とメロディ、そしてruaの2 人によるハーモニーが何より心地よく響く。
02:ユーヴ・ガッタ・フレンド(君の友だち)[You've Got A Friend]
これは、キャロル・キングの作詞・作曲による名曲。彼女は42年、ニューヨーク の生まれ。元々はニール・セダカの紹介で作曲家として仕事をするようになり、ゲ リー・ゴフィン(後に最初の夫となる)とのコンビでリトル・エヴァの「ロコモーション」や、シフォンズの「ワン・ファイン・デイ」など多くのヒット曲を書く一方、68年には自らシティを結成しアルバム『夢語り』を発表。この中には後にロジャー・ニコルズやアソシエイションもカヴァーする名曲「スノー・クィーン」も含まれてい る。
シティ解散後はソロ活動に入り、71年に名作『つづれおり』を発表。収録曲のう ち、シングル・カットされた「イッツ・トゥー・レイト」は71年に全米1位を記録、その後もアメリカを代表するシンガー・ソングライターとして活躍を続け、最近もアル バム『ラヴ・メイクス・ザ・ワールド』を発表し、健在ぶりをアピールした。さてこ の「ユーヴ・ガッタ・フレンド(君の友だち)」は、その『つづれおり』のハイライ トとも言える曲で、オリジナル・ヴァージョンにはジェイムス・テイラーがアコース ティック・ギターで参加している。96年に発表されたライヴ盤『カーネギー・ホール ・コンサート』での温かみ溢れるヴァージョンも魅力的だ。またジェイムス・テイ ラーも71年にシングル・リリースしており、これは全米1位を獲得。オリジナルの持つアコースティックな雰囲気を生かし、そこにキャロル・キングとも共通する色を感じ させるクリスティの声質が生かされたruaのヴァージョンも、なかなかの出来映えだ。

03:緑の風のアニー[Annie's Song]
 オリジナルは「カントリー・ロード」など多くのヒット曲を持つ、ジョン・デン バーがRCA時代の74年に発表した作品。全米1位を獲得した記念すべき作品でもあり、 タイトルの「アニー」とは彼の妻の名前である。自然を愛し、人を愛した彼の生き方 そのものが伝わってくるような、爽快なナンバーだ。このruaのヴァージョンも、原 曲の持つ清々しい雰囲気をクリントンのヴォーカルが上手く表現している。なお NHK『 青春のポップス』2001年9月23日オン・エアー分でもruaにより歌われているので、ご覧になられた方もいらっしゃるだろう。

04:デイドリーム・ビリーバー[Daydream Believer]
 モンキーズのヒット曲としても知られるこの曲は、67年10月にシングル・リリースされ、彼らとしては3枚目の全米1位を獲得した記念すべき曲でもある。ちなみにモ ンキーズのヴァージョンもカヴァーで、オリジナルは作者でもあるジョン・スチュ ワート。彼はキングストン・トリオに在籍したことでも知られ、65年のソロ・アルバム『ロンサム・ピッカー・ライズ・アゲイン』にもこの曲は収録されている。余談だ が、元々ジョン・スチュワートのヴァージョンでは「Now You Know How Funky I Can Be 」と歌われていたが、モンキーズがカヴァーする際にFunkyがHappyに改められた。Funkyには臆病といったマイナスの意味があるため、差し替えられたものだという。 ruaのヴァージョンではモンキーズ版の歌詞が採用されており、クリントンの透明感 ある歌声との相性もバッチリだ。なおこの曲は、NHK『青春のポップス』2001年4月1 日オン・エアー分でも、グッチ裕三&ruaにより披露されている。

05:夢のカリフォルニア」[California dreamin']
 この曲のオリジナル・アーティストであるママス&パパスは、60年代後半アメリ カでのフラワー・ムーヴメントの中心的存在として、多くのヒッピーと呼ばれる若者 の支持のもと人気を博したグループ。当時は音楽やファッション、そして平和や反戦 と いった政治的思想までもを巻き込んだ大きな社会運動として広がりを見せた。メンバーはジョン・フィリップス、ミッシェル・フィリップス、キャス・エリオット、デ ニ ー・ドハーティの4名で、彼らは美しい4声のコーラスを武器に頭角を現し、66年初めにこの「夢のカリフォルニア」をリリース、いきなり全米4位を獲得。この曲はカ ヴ ァーも多く、他にも例えばビーチ・ボーイズのヴァージョン(アルバム『Made In USA』に収録/元バーズのロジャー・マッギンが12弦ギターで参加)など、優れた作 品が多い。ruaのヴァージョンも、オリジナルの持つアコースティック・ギターの響 きを大切に、そこにクリントンのメイン・ヴォーカルとクリスティのコーラスが絡 む、印象的な出来。オリジナルの持つ哀愁感もうまく表現されている。

06:見つめあう恋[There's A Kind Of Hush]
 ビートルズが一世を風靡し、ブリティッシュ・ビート・グループに一躍脚光が当 たった60年代前半〜中盤、彼らに続くべくヒットを飛ばしたのがこの曲のオリジナル ・アーティスト、ハーマンズ・ハーミッツ。マンチェスター出身の彼らは、Voのピー ター・ヌーンを中心に63年に結成された5人組で、64年にミッキー・モスト(アニマ ルズをヒットさせたプロデューサー)が手がけ「朝からゴキゲン」でデビュー、全英 1位を獲得。65年にはアメリカに進出し、「ミセス・ブラウンのお嬢さん」で全米1 位を記録した。この「見つめあう恋」は67年に全米4位、全英7位を獲得した彼らの代 表作の1つで、カーペンターズやレノン・シスターズなどカヴァー作も多い。この爽 やかなruaのヴァージョンはNHK『青春のポップス』エンディング・テーマとしても歌 われているので、おなじみだろう。

07:ダニー・ボーイ[Danny Boy]
 この曲は、アイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」をカヴァーしたもの。ビン グ・クロスビーのヴァージョンをはじめ、「バナナ・ボート」などのヒットで日本で も 知られるカリプソ歌手、ハリー・ベラフォンテなど多くのカヴァー・ヴァージョンが存在する。元々、1855年にアイルランドの民謡収集家であるジョージ・ペトリーが 採譜し楽譜として出版、その後1913年にF.E.ウェザリーが作詞したこのヴァージョン は、アイルランドからアメリカへ移住し、戦前に活躍したテノール歌手、ジョン・ マーコックがレコーディングし広まったようだ。原曲の良さを生かしたシンプルなピアノと弦に優しく絡むクリントンのヴァーカルが、とても印象的なナンバーだ。

08:スマイル[Smile]
 この曲は、63年のチャーリー・チャップリンの映画『モダン・タイムス』から。 チャップリン自身が、監督・主演・音楽・脚本を手がけ、「人間が新しい現代の社会 を生きていくには、どうあるべきなのか」というテーマを掲げながら、資本主義社会 のあり方を痛烈に皮肉った作品として知られる映画だが、そういった批判性のある テーマの中にコメディーを効果的に取り込み、エンターテインメントとして成立させる手法は、さすがチャップリンと言わざるを得ない。この曲はチャーリー・チャップリンも作者の1人としてクレジットされている曲であり、タイトルにある「スマイル」を忘れず生きることこそ人間的な生活の証、とまるでチャップリンに言われているよ うな、彼の優しさ溢れる曲だ。ナット・キング・コールなどによるカヴァー作もある が、このruaのヴァージョンもジャズ・タッチのアレンジを施したピアノとベース、 そして弦楽器の音に合わせて、クリスティの美しい声が響き渡る、魅力的なナンバー。

09:エンドレス・ラヴ[Endless Love]
 これはブルック・シールズの主演で大ヒットした81年の映画『エンドレス・ラ ヴ』のテーマ曲で、オリジナルはライオネル・リッチーとダイアナ・ロスのデュエット作 品。ライオネル・リッチーは70年代にコモドアーズのメンバーとして大活躍し、74年に「マシン・ガン」で全米22位の初ヒットを記録。その後も「スイート・ラヴ」 (75年/全米5位)や「イージー」(77年/全米4位)といったラヴ・バラードでヒッ トを飛ばす一方、ソングライターとしても活躍、78年には自作曲の「スリー・タイム ス・ア・レイディー(永遠の人に捧げる歌)」で初の全米1位を獲得。また80年代に はコモドアーズの活動と並行してケニー・ロジャースの「レイディー」の作詞・作曲 ・プロデュースを手がけ、全米6週連続No.1を獲得するなど、まさに八面六臂の活躍 を続ける。そんな中、発表されたのがこの「エンドレス・ラヴ」で、ダイアナ・ロス との掛け合いも見事なこの曲は全米9週連続No.1の大ヒットを記録。その後も彼はソロとして『ライオネル・リッチー』や「オール・ナイト・ロング」を発表し大ヒットを記録、またUSAフォー・アフリカの「ウィー・アー・ザ・ワールド」を制作するなど常に第一線で活躍を続けている。このruaのヴァージョンも、原曲の持つダイナミックさと繊細さ、そして姉弟デュエットならでは息の合ったところを見せてくれる、よいカヴァーだ。

10:愛は翼にのって[The Wind Beneath My Wings]
 この曲はベット・ミドラーが88年に主演した映画『フォーエヴァー・フレンズ』の 挿入歌で、シングル・カットされ89年に全米1位を獲得したヒット曲。ベット・ミドラーは45年、ニュー・ジャージー州パターソン生まれのハワイ育ちで、その後ミュージカル女優や歌手を目指しニューヨークに移住し、様々な職を転々としながら66年にブロードウェイのミュー ジカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』にコーラスとして出演。また翌年にはキャストとして舞台に立ち、その後、オフ・ブロードウェイやダンサーなどの下積みを経て、71年にロック・オペラ『トミー』に出演。この頃から歌手としても頭角を現し、1stアルバム『ベット・ミドラー・デビュー』でレコード・デビュー。バリー・マニロウがピアノで参加したこのアルバムは話題となり、その後もジャニス・ジョプリンの一生を描いた映画『ローズ』のサウンドトラックで全米トップ10ヒットを記録するなど、大活躍を続けた。この「愛は翼にのって」は、そんな絶頂期にあった彼女が89年に発表した曲で、グラミー賞を受賞した彼女にとっても記念すべき曲だ。このruaのヴァージョンでは、ちょっと憂いを含んだ声の表情が魅力的なクリスティのヴォーカルに、繊細なクリントンがハーモニーを重ねる、オリジナルとはまた違った透明感溢れる美しい出来。エンディングのダイナミックなクリスティの歌声にも注目。なおNHK『青春のポップス』エンディング・テーマとして、2002年1月からオン・エアー。

11:マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ[My Wild Irish Rose]
 これもアイルランド民謡がオリジナル。ruaとファミリーによるスタジオでのライブ・レコーディング。この曲は1899年に作られたもので、ちょうど18世紀末〜19世紀にかけてアイルランドからアメリカへの移民が多く移り住んだ影響で、こういったアイルランド民謡がアメリカへも広まっていったようだ。余談だが 、この曲は当時結婚披露宴などでも歌われたそうで、短いながらもアカペラで聴かせるruaのハーモニー技術も、要チェックだ。

12:トリックル・トリックル[Trickle Trickle]
 この曲もrua&ファミリーのスタジオ・ライブによるアカペラだが、クリント ンの澄んだ声を全面的にフィーチャーした美しい作品だ。マンハッタン・トランスファーのヴァージョンで80年に全米73位まで上がった曲として知られるが、オリジナルは58年にリリースされたドゥー・ワップ・グループ、ザ・ビデオス(The Videos)のヴァージョン。
November 4, 2001 土橋一夫